コロナウイルスが世界中に広がっています。武漢から始まった伝染は、いまやイタリア、イランその他に広がり、アジアウイルスどころかイタリアウイルスであり、またイランウイルスになってきています。
さて、世界中で「陰性か陽性か」という話が紙面を騒がせていますが、これはいわゆるPCR検査というもので、DNAやRNAの断片を人工的に増幅させて、分析しやすくする技術です(Polymerase Chain Reaction)。現代の分子生物学や遺伝子工学はこの技術がなければ存在しなかったともいえるもので、このPCR法を発見したマリス博士は93年にノーベル賞を受賞しています。
世間ではこのPCR検査をもっと拡大せよと鼻息荒い声が聞こえていますが、正直実際の意味合いはあまりないのでは、と感じています。安心感が欲しい、という人もいますが、安心感すら得られないというのが実際のところかなと。そもそもPCR検査とて100%判別できるものでもなし、まして今後広まるであろう簡易キットだと更に精度は悪くなります。
例えば「浮かぶ武漢」と化したダイヤモンド・プリンセスで疑似的に考えると、2/18時点での公表データを基にして母集団をざっくり3700人と考えましょう。
PCR検査の精度を非常に高く見て、
・感度(=感染者100人に対し95人を陽性と判定する能力):95パーセント
・特異度(=非感染者100人に対し95人を陰性と判定する能力):95パーセント
とします。共に95%にすればかなり高いといえるでしょう。
日経新聞によれば検査を受けた1,723人に対して陽性と判定された人は454人だったそうなので、有病率は一旦26%と置きましょう。この前提でダイヤモンドプリンセス全体を検査してみたとします。
・実際に感染している人=3,700人×26%=962人
・感染していない人=3,700人- 962人=2738人
全体で陽性と判定される人:
・本当に感染している人:962人× 95%=914人
・本当は感染していない人:2,738人×5%=137人(偽陽性)
全体で陰性と判定される人:
・本当に感染していない人:2,738人×95%=2,601人
・本当は感染している人:962人×5%=48人(偽陰性)
陰性だったけど陽性だった!とか出てくるのは当たり前であります。もちろん、しかるべき検査手続きをしていても、という意味です。
ところで、この話を日本全体に仮に拡張してみましょう。日本で実は10万人の感染者がいたとします(仮定です)。人口を1億2千万人とすれば、全体の有病率は0.08%です。同じようにPCR検査の精度を感度・特異度ともに95%だったとして、ランダムにピックアップしたある人がPCR検査で陽性であったとした時に、本当に感染している確率はどの程度でしょうか??
これはベイズの定理という基本的な条件付き確率の問題として解くことができます。
・実際に感染している人:10万人
・ 感染していない人:1億1990万人
全体で陽性と判定される人:
・本当に感染している人:10万人× 95%=9万5千人
・本当は感染していない人:1億1990万人×5%=599万5千人(偽陽性)
全体で陰性と判定される人:
・本当に感染していない人:1億1990万人×95%=1億1,390万5千人
・本当は感染している人:10万人×5%=5千人(偽陰性)
結果として、ある人が陽性だと判断された場合に本当に感染している確率は、
9.5/(9.5+599.5)=1.6%
ランダムに選んだ場合で、PCR検査で「陽性だ!」と判断されたとき、本当に感染している確率は1.6%、それもこれはPCR検査が(コロナウイルスに対して)かなり精度高いと想定した場合です。ここから帰結されることは、
・感染確率が高い人を検査することが重要
・結局自分が感染しているかなんて分からないので、検査云々よりも、とにかく過剰に防疫措置と感染予防をとることが重要
ということです。インフルエンザと異なり、相手の性質が分からない以上、徹底的な戦力投入をする必要があります。既知のものではなく未知のものへの対応なのですから当然です。
検査結果は今のところ全体の動向をうかがう目安にしかなりません。分かっていることは高齢者の致死率が10%を超えるということでしょう。単に検査をしてほしいと叫ぶのではなく、まずは医療体制を維持すること、そして「疑わしきは隔離」として総力戦で臨むことが大切です。
■上記計算(ダイヤモンドプリンセス)についての参考HP