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民は由らしむべし,知らしむべからず ~統治基盤の揺らぎ

2020年5月24日

『「Gゼロ」後の世界』を書いたイアンブレマー率いるユーラシアグループは毎年年初にその年のトップ10リスクというものを講評していますが、2020年は「仕組まれている!誰が米国を支配するのか(Rigged! Who governs the US?)」として米国の大統領選が挙げられていました。

今年11月、トランプ氏は弾劾裁判にかけられた大統領として初めて大統領選挙に臨みます。断崖の理由は再選を目指した権力乱用であって、裁判でも53対47と僅差でした。弾劾裁判で止められないとすればトランプ大統領を止める仕組みはありません。次の選挙も結局「不正」のイメージを免れず、選挙結果に人々の多くは納得せず、親トランプと反トランプの溝が更に深まることになるでしょう。人口の半分が少なくとも「不正(Rigged)」だと感じ、統治の正当性そのものに疑問を抱くようになります。ただでさえトランプ大統領は今までの任期で中央銀行を攻撃し、裁判所を攻撃し、既存の統治システムの正当性を掘り崩してきました。しかし「アラブの春」でも明らかなように、壊すことは簡単でも、それに代わる、より素晴らしい仕組みを打ち立てることは容易ではありません。

統治の正当性というものは極めて重要です。既存システムそのものに信頼が置けなければ、誰もそれらのルールを守ろうとしなくなるでしょう。

日本で言えば年金の支払いは本当に履行されるのか?今の高齢者はもらえても若者がもらえる保証はないのであれば(少なくとも75歳や80歳からになるのであれば)、若者が年金制度にしたがって唯々諾々と社会保険料を払うものでしょうか。もし税務署長が税金を払っていないとすれば、人々は進んで納税しようと思うものでしょうか。仕組みそのものに対する信頼が重要なのです。

さて、最近日本では人事に関して国を挙げての問題になりました。行政府(官邸)が検察庁のトップ人事に対する介入度を従来よりも強めたいということだったのですが、コロナ対応で政府に対する不信感が募っている国民が、このトピックに反応してインターネット上で炎上したというものです。

(なお、もともと検察のトップ人事は内閣に任命権があり、考え方そのものに問題のある話ではありません。今回のケースは行政への不信感がこのテーマで一気に噴出したとみるべきで、日本はコロナ被害が非常に少なかったにもかかわらず内閣の支持率が下がるという不思議な現象が起きています)

その炎上した検察庁人事ですが、渦中の黒川検事長(政権が時期検察庁長官にしたかった人物)が麻雀賭博をスクープされ、急転直下辞任することになりました。コロナウイルスによる緊急事態宣言下、自粛期間中にも関わらず新聞記者と賭け麻雀をしていたということです。

日本の刑法185条では「賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。」と書かれており、形式上は1円でも賭ければ賭博罪は成立します(実際は但し書きの解釈が常に問題になります)。当然ながら今回の黒川氏の賭け麻雀も賭博罪の要件に該当するので、端的に摘発・起訴すべきでしょう。そもそも準司法的な組織として高度な独立性を与えられている検察官が、緊急事態宣言が出ているにもかかわらず賭博をするということ自体が、社会的には許されないことではないかとも思われます(あまりにタイミングが良すぎ、周りの証言もあっさり一致しているので嵌められたのではないかとも勘ぐられますが)。

この事実だけでも検察への信頼を失墜させるのに十分であるにもかかわらず、今回法務省は「懲戒免職」ではなく「訓告」処分にしています。刑事局長によれば、今回の賭けレートは「点ピン」(1000点100円)、「必ずしも高額とは言えない」とのこと。とすれば、今後は点ピンの賭け麻雀はすべからく許されることになりますし、今まで摘発されてきた事実との平仄も合わないように思います。そもそも、第一次安倍内閣において賭け麻雀は賭博罪に該当すると閣議決定しており(2006年12月19日、鈴木宗男議員の質問主意書への答弁にて)、ここでも一貫性という点で安倍内閣のブレが信頼性を失わせる結果になっています。

民は由らしむべし、知らしむべからず

「論語」泰伯

今回のコロナウイルスでは安倍政権は国民の信頼を著しく失うことになりました。今までの不信感が積みあがり、まるで堤防が決壊するかのように、政治に対する不信が表出する様子を目の当たりにしています。

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