東洋思想

分かったつもり!? ~500回生まれ変わっても同じことに悩んでいるかも

最近の大きな潮流は「政治リスクの増大」です。

もともと、リーマンショックやギリシャ危機などは金融リスク・財政リスクでしたが、トランプ政権の誕生やBrexitなど、明らかに政治起因のリスクが大きくなっています。EU各国内でも自国第一主義やEU懐疑派が増え、ポピュリズムが台頭してくるにつれ、今までの西洋民主主義の基盤が掘り崩されていってしまっているようです。

しかしよく考えてみると、自由主義陣営が当たり前になったのも冷戦後であることを考えれば、今の体制もたかだか30年くらいのものであって、「当たり前」とするにはあまりに短いものだったのかもしれません。

民主主義が完全で賢明であると見せかけることは誰にも出来ない。実際のところ、民主主義は最悪の政治形態と言うことが出来る。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、だが。

ウィンストン・チャーチル 下院演説 (November 11, 1947)

といったのはチャーチルですが、民主主義と衆愚政治は紙一重、民主主義こそ民度が問われる体制と言わなくてはならないのでしょう。

ウィンストン・チャーチル Sir Winston Churchill-19086236948 ( From Wikimedia Commons, the free media repository )

中国南宋時代の無門慧開が編纂した書物である『無門関』に野狐禅という有名な話があります。

百丈和尚、凡そ参の次で、一老人有り、常に衆に随って法を聴く。衆人退けば老人も亦た退く。忽ち一日退かず。師遂に問う、「面前に立つ者は復た是れ何人ぞ」。老人云く、「諾、某甲は非人なり。過去迦葉仏の時に於いて、曾て此の山に住す。因みに学人問う、『大修行底の人、還って因果に落つるや也た無や』。対えて云く、『不落因果』と。五百生野狐身に堕す。今請う、和尚一転語を代わって、貴ぶらくは野狐を脱せしめよ」といって遂に問う、「大修行底の人、還って因果に落つるや也た無や」。師云く、「不昧因果」。老人言下に於いて大悟す…

==現代語訳(丹羽)==

百丈和尚が説法をするとき、一人の老人がおり常に他の人々に随って和尚の話を聞いていました。周りの人が帰ると老人もまた帰っていきます。ある日のこと、思いがけず老人が帰らないことがありました。和尚は遂に「私の面前に立っている貴方は何者か」と聞きます。老人が答えるには、「私は人間ではありません。過去、迦葉仏のときにこの山の住職をしていました。そのとき、一人の修行者から『大いに修行を積んで禅を極めた人は因果律の支配をうけるのでしょうか?』と聞かれ、私は『因果律の支配は受けない(不落因果)』と答えました。その結果、五百回生まれ変わるような長い間、この野狐の身になって山をさまよっております。今、和尚様にお聞きしたい。どうか正しい答えを教えて私を野狐の身から助け出して成仏させてください」と言います。その老人は和尚に問いました。「大いに修行を積んで禅を極めた人は因果律の支配をうけるのでしょうか?」百丈和尚が答えるには、「因果に暗からず(不昧因果)」。その老人は言下に悟りを開きました。・・・

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「無門関」第2則「百丈野狐」
狐 from mindseeds.inc

「野狐禅」とは正しくない邪禅、中途半端な理解で分かったようなことをいうことを言いますが(野狐は低級な妖狐のこと)、なんとなく、私たちの民主主義とか自由主義とかいうのも野狐禅だったなあと振り返りたくなるのです。なんとなく民主主義や自由主義が万能のように思っていても、結局人間や社会そのものへの洞察ができていなかったのかもしれません。

ここの狐はかつて住職だった時、修行を積んで悟りを開いた人は因果律から抜け出るのか?と聞かれ、「因果に落ちず」と答え、野狐に身をやつすことになりました。百丈和尚は「因果に暗(昧)からず」、すなわち因果を正しく認識できること、と答え、これを聞いた野狐は言下に悟りを啓くことになります。

「明晰とは一つの盲信である」と社会学者の見田宗介は言いました。

「それは自分の現在もっている特定の説明体系の普遍性への盲信である。特定の歴史的、文化的世界像への自己呪縛である」。

真木悠介(本名:見田宗介) 『 気流の鳴る音』

無知に耽溺するものは

あやめもわかぬ闇をゆく

明知に自足するものは、しかし

いっそう深き闇をゆく

ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッド 4.4.10

分かった気になるあたりが一番危険なのでしょう。分かったつもりでいて、結局足をすくわれる、まさに野狐禅そのものです。よく考えれば、ナチス政権を生んだドイツのワイマール共和国も当時最先端の民主的憲法体制でした。分からない前提で、より良くなるにはどうすればよいのか、皆が知恵を絞りあう環境こそ、現状を保証する唯一の策なのだと思います。今回のBrexitについても、結局私たちは同じような混迷を、何度も何度も経験しているのかもしれません(それこそ500回以上?)。

権威主義が一定の影響力を持ち始めている今、政治体制のあり方も世界的に独裁政権が増えてきています。新しい経済環境の中、どのような政治体制が必要か、どのような政治体制が何を実現できるのか、「蛍の光」を歌う前に真剣に考えてみたいと思います。


無門関 (岩波文庫)
気流の鳴る音

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